期待に胸を膨らませてはいても、未体験ゾーンは、いつも例外なく緊張する。
今日は御主人様が、私をある場所に初めて連れて行ってくださる日。
成人映画館ーー。
話に聞いた事くらいはあるし、どんな所か何となく想像のつく場所だけれども、一度も足を踏み入れたことはない。
御主人様の意図は、何となく察しはついているのだけれど。
御主人様に手を引かれ、やがて目的地の映画館に着いた。
少し饐えた匂いのするような、レトロな昭和の雰囲気を醸し出す空間。
うん。嫌いじゃない。
館内に入ると、その空気が一変したのに気付く。
明らかに私は場違いなのだ。
スクリーンにはポルノ映画が上映されており、私以外は男性ばかり。
その居心地の悪さから、少し肩をすくめ助けを求めるように御主人様の腕にしがみつく。
腰を低くし、おずおずと遠慮がちに、中央より少し後方の端の席に二人して座る。
着席してからは、しばらく沈黙したまま二人並んでスクリーンを見つめる。
極度の緊張で、内容は全く入ってこない。
その時ーー。
静寂の中に、僅かな騒めきのような空気の変化を感じる。
映画を観ていた何人かの男性が、席を立って移動し始めた。
何かを予感した男性達が、明らかにじりじりとこちらに近づいてきているのだ。
私は急に怖くなり、完全にかたまってしまった。
心臓の動きが速くなり、喉が渇いてくる。
不意に御主人様の手が、私の太ももに伸びてきて弄り始めた。
一瞬身体が強張りビクッとしたけれど、逆に、不思議と少しずつ緊張が解けていくのがわかった。
御主人様の手の動きは、どんどんエスカレートしていき、気が付けば、何人もの男性がかなりの至近距離まで近寄ってきていた。
私は恥ずかしくて、思わず顔を背け俯いてしまった。
「皆さんに、君のおっぱいを見せてあげなさい」
御主人様はそう言うと、私のワンピースを一気に胸元の上までたくし上げた。
ノーブラなので、乳房が丸出しになってしまう。
足もM字に開脚させられ、肘掛けの上に足の裏がつくような姿勢をとらされた。
「キレイな胸ですね」
という見知らぬ男性の声とともに、手が伸びてくる。
「触っちゃ駄目だよ」と諌める御主人様。
もうその頃には、私はすっかりこの「成人映画館」の世界に飲み込まれてしまっており、御主人様がショーツをずらそうとした時には、濡れてしまっている事が暴露てしまうのが恥ずかしかった。
パイパンの潤っている局部が露わになった時には、周りで溜め息やどよめきのような声が漏れ、沸いた。
硬く立っている乳首を吸われ、御主人様の指が中に入ってきて、抽送を始める。
十分に濡れているので、挿入は容易だった。
薄暗い猥雑な空間の中、クチュクチュと湿気を帯びた音だけが響き、異様な熱気のようなものを皮膚に感じ、思わず声が漏れ、体温が上がっていく。
もう息がかかりそうな距離。
もっと見られたい。見て欲しい。
私がイキそうになったところで、御主人様は「今度はフェラさせるから」とズボンのファスナーを下ろす。
私は座ったままの姿勢ではなく、座席に膝をつき、周りによく見えるように自分からお尻を突き出した。
不思議だ。
消えてしまいたいくらい恥ずかしいのに、浅ましい自分を、こんなにも曝け出して見てもらいたい。
背後にたくさんの視線を感じて、ご奉仕にもいつも以上に熱がこもる。
一心不乱にむしゃぶりついていると、不意に「そろそろ出ようか」と御主人様。
私は少々呆気にとられ物足りないくらいでさえいた。
でも、このくらいの〝もっと見られたい〟〝もっと見たい〟とお互いが思い合うくらいが潮時というか、よい塩梅の去り際なのだろう。
映画館を出ると、外は明るかった。
今日は天気もいい。
「こんな事を言うのも変だけど、清々しい、いい笑顔だね」
御主人様の言葉に、えっ?と、一瞬素に戻った私は、今度こそ本当に恥ずかしくなる。
「フェラの時、自分から四つん這いになったでしょう。ああ、君はわかってるなぁって」
私は照れくさそうに頷く。
「いやぁ、あの時俺は誇らしかったよ。俺はこんなコ連れてるんだってね」
その間にも、無関係な人達がどんどん私達の間を通り過ぎていく。
明るい太陽の下では、不釣り合いな会話だったけれど、これも人生のおかしみのひとつーーSMには、時に必要なユーモアのひとつだと思った。